ピス健@はてなブログ

90〜00年代を懐古するブログ

「夜王」に学ぶ笑いの手法

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最も好きな漫画は何か、という問いがあれば何と答えるだろう。
今日に至るまで、数多くの名作が産み出されており、一作に絞ることなど到底できようはずもない。
しかしながら、最も好きなギャグマンガは?という問いには答えることができる。そう、夜王である。

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『夜王』(やおう)は、倉科遼(原作)、井上紀良(作画)による漫画作品。およびこれを原作とするテレビドラマ作品。
北海道から上京してきた的場遼介が新宿・歌舞伎町を舞台に様々な対決をしていくホストの物語。夜のネオン街を舞台におりなすホスト達のストーリーで、仲間のホスト達、ライバルのホスト達との戦いや女達との恋模様など、勧善懲悪で現実の夜の世界をやや誇張しているものの、努力・友情・勝利・恋愛など漫画ならではの要素をふんだんに取り入れた作品。人物作画や背景の使いまわしを多用する独特の表現が特徴。なお、背景はCGで作成されている場合が多いという。集英社週刊ヤングジャンプ」2003年9号から2010年16号まで全313話連載された。単行本は全29巻、2007年3月12日時点では売り上げ150万部以上。なお連載の休載はほとんどなく、倉科原作の作品でも類を見ない、7年に渡る長期連載となった。

と、未読の方にはあらすじだけ紹介しても伝わりづらいかもしれないが、この夜王という作品、令和の現代においても通用するほどの、「笑い」の経典としてその地位を不動のものとしている。

勿論、直接的にギャグとして描かれているわけではなく(いくつか笑いに走ったシーンがあるようにも見えるが)、昨今で言うところのいわゆる「シリアスな笑い」を体現している漫画である。

(主人公も含め)異常な性格のキャラ、多用されるコピー、独特なセリフ回しなど、そのツッコミ処には枚挙に暇がなく、多くのファンに愛されながら7年にも及ぶ長期連載を遂げた。

今回は、漫画史に燦然と輝く怪作、夜王の面白さを、その数々の笑いのテクニックを紐解くと共に、皆様に紹介できればと思う。

「勢い」の笑い

いつの時代においても、突然に繰り出される「勢い」に基づいた笑いは、前後の脈絡を抜きにしても思わず笑ってしまう、不意打ちにも似た芸当といえる。
夜王においても、そのメソッドは如何なく発揮されており、特に主人公、遼介においてはその傾向が顕著である。

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冒頭、連載2ページ目にして、見開きで放たれる渾身の咆哮「ウオォォ---ッ!!
この叫びは遼介の代名詞として、度々読者が目にすることとなる。
基本的にこの漫画は主人公が「ウオォォォォ--ッ!!!!」と叫んだあと相手を暴行してなんやかんや問題が解決している、というのが王道のプロセスである(注:ホストの漫画です)。

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(いくらなんでもやり過ぎ)

勢いと言えば他にもある。

登場人物の一人、北村 美紀(きたむら みき)

ホストクラブ「エロティカ」のオーナー。学生時代から全国にエステのチェーン店を展開させる実業家で、神大寺の支援により芸能界から若手のアイドルを中心にホストとして雇い、エステや料理まで一流にするなど新しいタイプのホストクラブを開店した。裏では神大寺に多額の借金をして愛人関係を結ばされていた。

この、愛人関係を描写する際のコマがこちら。

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愛人契約!!


見開き2Pを使用しての威風堂々たる性描写に当時の読者は度肝を抜かれる事となる。

愛人契約!!……是非とも声に出して読みたくなるような日本語だ。

「静止」の笑い

笑いの世界には、あえて紡いでいた言葉、動作を唐突に遮ることで、「間」を作ることによって生じる笑いがある。
個人的にはこれを静止の笑いと呼んでいるが、それを芸術の域までに発展させたのがこの、夜王であると言えるだろう。

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なんかシュール


絵が下手とかいう訳ではないのだが、妙に動きがないコマがあったりしてひっそりと笑いを誘う。

「引用」の笑い

夜王の作中においては、そのキャラクターの造形に強い既視感を覚えることがある。

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ネプ〇ューン?

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サッ〇ー?

どこかで見た顔であるが、こうした世間的に知られている人物をあえて持ち込むことで、読者の共感と実在する人物との落差による笑いを生む効果を狙っているのではないだろうか(たぶん)。

「繰り返し」の笑い

夜王の特徴として、既に使用したキャラ絵を加工して何度も再利用する「コピー」の技術が多用される傾向にある。
よく言えば作業効率を上げる為、悪く言えば面倒くさいが故に使用されている技術であるが、無理やり縮尺を変えて当てはめているのでペンの太さなど、微妙な違和感が笑いを誘う。

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また、この漫画を語るうえで欠かせないシーンだが、ある人物の号令に、答えるホストの面々に、その号令をかけた人物が混じっているという誤植が存在する。

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コピーの多様による弊害だと思われるが、こうしたハプニングが相乗効果としてより多くの笑いを生む結果となった。

「ギャップ」の笑い

人はある物事を情報として捉えた場合、その情報が既知のものと大きく異なると違和感を覚え、その違和感が笑いに発展するケースが往々にして存在する。
夜王の主要人物の一人であり、物語の根幹にかかわる上条 聖也(かみじょう せいや)というキャラが存在する。

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覇気」などと、ワンピースのような表現がなされているが、普通に一般人である。


「ロミオ」のNo.1ホストであり、「歌舞伎町四天王」の一人。初登場時28歳。遼介が現れるまでは、聖也を嫌う数人を除いて全てが聖也派であるなど絶対的な存在であった。
一見傲慢でナルシストに見えるが、一夜を共にした女性が誇りに思うほどに日々肉体を鍛え、聖也派ホスト達のお客に対する接客を逐一注意するなど面倒見がよく(但し、隠し事や無断及び独断での行動をした者は同じ派の者であっても決して許さない)、新天地の博多でも母の援助を蹴りスコーピオンで新人から出直し、店内全体を工夫をしたり、身銭でキャバクラでキャバ嬢のキャッチに行って客足を増やすなど日々の努力を惜しまず実力で勝ち取ろうとする努力家である。

物語開始直後から登場し、煌びやかなホストの象徴として描かれる完璧超人のような存在であったが、物語が進むにつれてそのポンコツぶりが如何なく発揮されることとなる。

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主人公との一気飲み対決で放った一言。「プハーッ!!飲んだぜ!!

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最終的にはNO.1ホストの座を主人公に譲り、自身は新天地で0からホストを目指す。

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注;コラではありません

などなど、彼の名言、名シーンは挙げていけばキリがないが、個人的には少年漫画誌に残る魅力的なライバルキャラであったと思っている。

「鬼畜」の笑い

日常での些細な失敗や、それほど重要ではないことに関して過剰な罵声を浴びせたり、難解な言い回しで相手を非難することにより生じた温度差から笑いを生み出す手法が存在する。

最後に、このキャラを避けて通ることはできないだろう。肉便器様こと、霧崎 京一郎(きりさき きょういちろう)である。

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警察庁のキャリア官僚。階級は警部。子供の頃に警官だった父親が覚せい剤中毒者に刺殺されて殉職、思春期の頃に母親が悪徳ホストに騙され、覚せい剤漬けにされた過去を持つ。それゆえにホストと覚せい剤を誰よりも憎み、それらが絡む事件になると強引で乱暴な捜査をする。口癖は「肉便器」とかなり卑猥。

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己の出世と欲望の解放の為ならば暴力も厭わない、真の鬼畜として描写されているが、主人公との共闘を通して徐々にその態度を軟化させ、やがて「肉便器」と蔑み、欲望のはけ口にしていた風俗嬢「麻美」と結ばれることになる。

一連の事件が終わった後、改心した霧崎はこの麻美にプロポーズを行う事となるが、その際の台詞に読者は衝撃を受けることとなる。

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「麻美…お前さえよければ俺の生涯の肉便器にしてやってもいいぞ…いや なれ!
そう、今なお語り継がれる、「漫画史上最低のプロポーズ」である。
当の麻美は「ア…ア…ア…」とフリーザの進化形態を目にした時のクリリンのような言葉を発しているが、どうやら彼女の胸には刺さったようで、熱い抱擁とキスを交わしている。
なんとも珍妙なシーンではあるが、場にそぐわない鬼畜な発言が笑いを生み出し、読者の抱いた感想とキャラクターの心情とのギャップが相乗効果の役割を果たしているといえる。

いかがであっただろうか。
2000年代に、これほどまでに面白い漫画が存在していたことに、畏敬の念を感じてやまない。
上述したようにツッコミどころは多いものの、テンポが良く、少年漫画としてのツボは抑えている良作なので気になった方は是非とも手に取り、全巻読破していただきたい。

それでは、最後に最終回のラストシーンをご覧いただき、この記事の締めくくりとさせてほしい。

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最後まで「ウオォォ---ッ!!」

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今回の記事はここまでとなります。
他にもこんなキャラが好きだ、このシーンが良かった、この作品がおすすめだよ、という方がいらっしゃればぜひコメント欄などにてお伝えいただけると幸いです。
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またお会いできる日まで。